あたらしいおうちにきました
生まれてからずっとお友だちといたけど、今日あたらしいおうちにきました。
みんなとお別れするのはさみしかったわ。
でもあたらしいパパとママができてうれしいの。
あたらしいおうちは、今までいたところとちがって、何だかいろいろなものがあちこちころがっているの。
とりあえずは食べられるのかどうかかくにんしなくちゃね。かんでみるわよ、がしがし。
でも、そのたびにママに「だめっ」て言われるの。どうして?
あたしはあたらしいおうちの中をかくにんしているだけなのに。
今までずうっとおへやの中で生かつしてきたの。
たくさんの人と会うのはへいきなんだけど、へやの向こうにはなにがあるの?
きょうのおひる、パパがまどを開けていたけれど、ごーとかぶっぶーとかががががの聞こえてくる音がこわくて、ケージのすみで小さくなっていたの。
音だけじゃないわ。パパがまどを開けたとたんに、それまでじっとしていたカーテンがふわふわおどるように動きだしたの。
あたし、それを見てびっくりしてこわくてふるえちゃった。
パパとママはふるえているあたしを見て、「これじゃあさんぽにつれていけない」「なんとかしてそとのせかいにならさなきゃ」としんぱい顔。
しらないわよ。あたしはここがいいの。
あたしの新しいおうちには、パパとママのほかにもふたりのおねえさんがいる。名前は「あかり」と「ひかり」。おねえさんのくせに私よりもとっても小さい。ハムスターっていうらしいの。
ふたりのおねえさんはいままでママのあいじょうをひとりじめ…
ちょっとちがうわね。
ふたり占めしていたのだけれど、あたしがきたことでちょっとじょうきょうが変わったみたい。きょうもママはしごとから帰ってくるなり、あたしのところにかけよってきてなでなでしてくれた。ケージにはりついてひまわりのタネをねだるおねえさんたちは軽くスルーされていた。
パパは、おねえさんたちを手のひらの上に乗せて、さみしそうに話しかけていた。
「おい、あかり。おまえ分かっているか?おまえは二番目に降格したんだよ。そしてひかりは三番になったんだよ。で、俺は四番だ」 って。
あたしにはむずかしくてよく分からないわ。
おへやであそんでいたら、まどを開けてくれたの。でもあたし、まどが開くのはうれしくないのよね。
「庭においで」っておもちゃをふってくれるんだけど、お外がこわいからかんがえていたの。
でも、なんだかぽかぽかとあたたかくて気もちよさそうだから、ゆうきを出してジャンプ。
うろうろ。
安心できるばしょなのか、まずはにおいをかいでかくにんしたの。
だいじょうぶそうだわ。走ってみたわ。
でも、ここから先はなんだかちょっとようすがちがうみたい。こわくておりられなかったわ。
きょうのところはこのくらいでかんべんしといたる。
ケージの中は、あたしのベッドと、紙をしいてあるばしょがある。
あたしは自分のねるばしょをよごしたくないから、ケージの中にいるときは、おしっこやうんちはベッドではやらないの。紙のうえでするの。でも、ケージから出してもらうと、どこでもきにせずに、やりたいときにやりたいばしょでおしっこやうんちをするの。
パパとママは 「といれでしなさい」っていうけれど、といれがどんなばしょなのか、あたしにはわからない。
パパとママはなんでそんなにおこっているの。
あたしはこどもだから、よくわからない。
おしっこやうんちをしたからおこられるのかな?
おしっこやうんちはいけないことなのかな?
じゃあ、今度からはおしっことうんちをかくれたばしょでやらなきゃいけないわ。カーテンの後ろがいいかしら?それともテレビのうしろ?
それも困るでしょ。
ね。
あさ。パパとママと、お外にさんぽしたわ。はじめてのお外。しなの川のやすらぎていというところよ。
とちゅうの道はこわくてふるえていたの。だからママにだっこしてもらって川まで行ったの。
しずかなばしょについてから、地面におろしてもらったわ。とりあえず安全をかくにんしなきゃ。くんくん。
いつもとちがうにおいばっかりで不安だわ。歩きたくないの。あんまり楽しくないの。
というか、パパとママばっかりおいしそうなあさごはん食べててあたしにはくれないの。ずるいわ。いじけてやる。
ママといっしょに、はじめてのさんぽのきねんさつえいだって。
でも、いじけてるんだから。あたし。
さいきんあたしはお庭にも出られるようになったの。
天気のよい日にはお庭でひなたぼっこ。お気に入りの歯ブラシをがしがしかみながらひなたぼっこするの。
でも、日がまぶしすぎて目がしょぼしょぼする。
ちょっとぉ。もうちょっとかわいくとってほしいわ。
今日はね、うみへ行ってきたの。
お気にいりの木の枝を見つけてあそんでいたの。ママが「ほうら。あっちに行ってごらん」っていって木の枝を投げたの。
いつものあそびだとおもってとりに行ってみたら、お水がざぶ〜んってやってきたの。びっくりしたわ。
急いで逃げたけど、パパとママは笑っているのよ。
や〜ねぇ。あたしは冷たかったし、こわかったのよ。
あたまにきたから、びしょびしょのからだのまま、砂浜あちこちころげまわってからだじゅう砂まみれになってやったわ。ママは「やめてー」ってさけんでいたけれど、ふんだ。
でも、おうちに帰ってきたら、すぐにシャワー室につれこまれて、じゃぶじゃぶ洗われたのあたし。
あたし知ってる。こういうのを水難の日っていうのよね。
お耳のあたりがかゆいの。
かゆくてかゆくてぽりぽりかいていたら、「ノミでもひろってきたかなぁ」ってママがいうの。それだけじゃないわ。ママとパパは「あたしがくさい」っていうの。パパは「子犬はうんこたべちゃうからなぁ。だから臭いんじゃないのか」っていうのよ。しつれいね。
でも、パパもママもそれ以上はとくに気にしないでいたのねあたしのことを。あたしは耳のあたりがかゆくてかゆくてしかたないんだけれど、ちょっとどうにかしてよってうまく言えないの。
ていきけんしん。っていうので病院に連れて行ってもらったら「がいじえん」なんだって、あたし。おいしゃさんにママ叱られていた。お耳の中がうんでどろどろだって先生にいわれたわ。お薬をもらって、しばらくはお医者さんに通わなきゃいけなくなったの。
あのね。あたしたちミニチュアダックスフントの耳たぶは大きくて、しかも「だらん」てたれているの。「ぴん」と耳がたっているわんこさんたちと違って、耳の中に水が入ると、たれている耳たぶがフタになってしまってかわかなくて、だから「がいじえん」にかかりやすいんだって。ママもちゅういしていたらしいけれど、まさかこんなになりやすいとは思わなかったみたい。
おうちに帰って、夜、さっそくパパとママ、ふたりがかりであたしのお耳そうじをしてくれた。でもあたしお耳のそうじはきらいなの。お耳に薬をいれるのもきらいなの。
パパにおさえつけられて、ママがめんぼうでお耳のなかをくりくりそうじするの。あたしは痛くてあしがひくひくうごいちゃう。耳からめんぼうをとりだすと、ドロドロしたうみでまっくろになっているの。ママもパパもぴっくり。
「ごめんね。ごめんね。もっとはやく気がついてあげられなくてごめんね」って、ママったらなきべそじょうたいよ。
あたしがくさいのも、耳のなかが化のうしていたからみたい。とりあえずへんなごかいがとけてよかったわ。たしかにあたしはうんこをたべちゃうのだけれどさ。
はやくなおらないかしら。
ときどきママといっしょにお店に行くの。お店にはあたしのおともだちもいっぱいいるんだけど、お洋服を着ているコもいる。お店にも服がたくさんならべられているわ。
でもあたしは着ないの。というか、着せてもらえないの。
あたしのパパは、「わんこに服をきせるなんてアホくさい。それだけはぜったいにゆるさない」って言うのね。ママはちょっとだけ。ほんのちょっとだけ不満らしいけれど、パパのほうしんを支持しているらしい。
今日、お店でママのかいしゃの人とあった。そのひとのおうちにも、あたしとおなじおともだちがいる。毛の色は黒くて、しかも短い。でもあたしとおなじ種類のおともだちだ。ママとそのひとと、お店の中でながくお話をしていた。
「くるみちゃんは、服はきないのかしら?」そのひとが聞いた。
「だめ。うちのダンナは『犬畜生に服なんて、ぜったいに許さん』って断固反対している人だから」と、ママ。
服がならんでいるばしょでそんな話をしていたから、「どれがうちのコに似合うかしら?」って、いっしょうけんめいにえらんでいた女の人は、ママの話を聞いて苦笑していたわ。
あたし?
服は着たことがないからわからない。
そうね、お店でシャンプーしてもらうとお耳にリボンを付けてくれるのね。ママはリボンをつけているあたしをみて「かわいい」って言ってくれるの。
でもあたしは体になにかよけいなものがついていると、きもちわるくてきもちわるくて、もう、すぐにリボンをはたきおとしちゃうの。
そんなあたしを見て、ママはふまんそう。
でも、パパはまんぞくそう。
むずかしいわね。まったく。
きょうは高田公園ってとこにいってきたわ。
桜がまん開できれいだったわ。
あたしが入れない公園はいっぱいあるけど、ここはおさんぽできたのよ。楽しかったわ。
だって村松公園はね、おはなみばしょいりぐちに「犬お断り」てかんばんがたててあって、あたしは入れなかったの。パパもママもがっかりしていた。あたしはまた車の中でおるすばんなのかとおもったけれど、パパが「ふん。じゃあいいや」ってね、みんなで帰ることにしたの。
パパは「だったらはじめから入口にそう書いておけ。駐車場料金500円払って損した」て怒ってた。
ちょっとみみっちいわね。
今日はパパとママとチューリップをみてきたわ。
菜の花畑もあったのよ。いいにおいねこれ。食べてみたわ。もぐもぐ。
なかなかだとおもうわ。
いっぱい人がいて、あたしみたいな子もたくさんいたわ。
「お友達になりましょ」ってちかづくと、「ワンワン」っていうのよ。どうして? あたしはみんなと仲よくしたいだけなのに。でも、いっぱいの人からなでなでしてもらってうれしかったわ。「かーわいい」っていっぱい言われたの。ママはまんざらでもない顔をしていたけれど、でも「かわいい」って言われているのはあたしなのよ。ママじゃないんだから。
くろい色のおともだち5匹をつれていたおとうさんは、あたしをみて、「おれもおまえみたいな金色の子がほしかったんだよ」っていってさみしそうな顔をしていたの。うふふ。あたしは心の中で「おー。ほっほっほ」ってわらったわ。でもきちんと、「くろい子もかっこいいわよ」っていってあげたの。
いろんな人からなでられてうれしかったけれど、疲れたわ。
だっこして。あたしもう歩けない。
パパがおでかけをするとき、「あたしをおいていかないで」っていうのに、いつもおいてけぼりなの。
あたしはひとりぼっちはきらいなの。
だってね、おうちでひとりぼっちはさみしいのよ。
いつもちいさな窓からお願いするんだけど、「ごめんね」ってパパはおでかけするの。
これはあたしのベッドよ。ガジガジしていたら穴が開いちゃったの。
穴が開いたから首を入れてみたの。よいしょって出ようと思ってがんばったら、ママにおこられたわ。
パパは 「ライオンのたてがみかっ!」ってつっこみをいれてくれた。
まあまあね。