
とちゅうからとってもいいにおいがして、あたしはわくわくよ。
今日もいいにおいがしたわ。
ママ、あたしにもちょうだい!!
あたしは女の子なので、朝の身だしなみはかかせないわ。 ママもなげいているけれど、朝のいそがしい時間の中で、こうりつよく身だしなみをととのえなければいけないのが、悩みの種だわよね。
でもあたしは今日、ものすごい技を二つあみだしたのだわ。みなさんにお見せするわね。
あたしは今日、夜になるまで寒くて寒くてずっとパパのおへやのベッドのなかで丸まっていたけれど、リビングのおへやから 『カチッ ジジジジ ぼっ!』っていう、聞きおぼえのある音を聞いたしゅんかん、飛び起きてダッシュでそれにかけよったわ。
そうなのよ、ようやくストーブがついたのよ。あたしはこの日がくるのを首を長くしてまっていた。 そうよ、あたしは首が長くて足は短いくるみさんなのよ何かもんくある?
あたしはもう、しふくのひょうじょうでストーブの前でとろとろのへろへろのぐでんぐでんなのだわ。
そして、忘れてはならない大切なこと。 それは、今日からママとのしれつな場所取り争いが始まるってこと。
あたしは負けないわよ。
あたしはパパとママにお願いしたわ。「ねぇ、こうようを見にいこうよう」って。
… じつはこれはパパから聞いたおやぢギャグだわよ。いやね。
そんなわけで、クルマに乗ってこうようを見に行ったわ。
山形県に近い、たかのすというところで、つり橋というものをわたったの。
でもあたしは高いところがこわくて、おしりのあたりが きゅっ とするの。
こういう場所は、ダッシュで走りぬけるに限るわね。
山はなかなかきれいだったわ。でもあたしはやっぱり食べられるものの方が、好き。 なにかおいしいものはないの?ママ。
ママが、山にいくとちゅうの朝市という場所で、いろいろな野菜を買ったわ。
つけ物にするための赤かぶのほかに、レモントマトとか、むらさき大根とか、このしゃしんの手前にあるのはビーツというらしい。赤かぶをつけるときに入れると、とてもあざやかな赤になるそうよ。
「スーパーではなかなか見られない野菜だね」ってパパも楽しみにしているみたい。
あたしはどんな味がするのか、わくわくだわ。
朝市で買ってきた赤カブをつけものにしようと、ママがしんけんなのだわ。 重さをはかって計算して、ぶつぶついいながら、しんけんなの。
ママがどのくらい赤カブのつけものにしんけんかというと、「べつに、安いプラスチックのバケツで充分じゃない?」というパパのちゅうこくにも耳をかさず、ふんぱつしてかめを買ってきたくらいよ。
『たいへんねママ。あたしもてつだおうかしら?』 って聞いたのだけれど、「今ママはひっしなんだから、じゃましないでちょうだい!」っておこられたの。
あたし知っている。 こういうのを 「触らぬ神に祟りなし」っていうのよね。 あたしはママからはなれて、そっとおうえんすることにしたわ。
ママはあたしを見ながら 「くぅちゃん。赤カブは、ずーっと待て待て、ずーっと待て。なのよ」と言った。
あらあら、なによ。 すぐには食べられないの? ずいぶんとめんどうな食べ物なのね。
あたしは赤カブづけとは、おともだちになれない気がしてきたわ。
今日は朝から本当にいいお天気。 雲ひとつなくて、お日さまがぽかぽかと気持ちいい。
にいがたの冬がほんかくてきに来ると、こんな天気はめったいに味わえない。あたしは今日という日をまんきつすることにしたわ。
「だらしないなぁ」ってママはあきれているけれど、あたしはこれでもしんけんなのよ。 太陽さんの光をおなかいっぱいに浴びるの。
だからじゃましないでね、パパ。
きのうの朝起きたら、白いものが降っていた。 あたしはもう知っている、これは雪というのだわ。
あたしは起きるとママより先にストーブの前に行く。そして、「ねぇ。早くストーブをつけてちょうだい」って、パパとママにきゅいんきゅいんとお願いする。
いつもはパパにべったりなあたしも、今はストーブの前にいることの方がじゅうようなの。 それに、パパのお部屋はまだストーブがついていないから、行かないのよ。
そんなあたしを見てパパは、「こら、くるみ。そんなにストーブストーブ言うのなら、ストーブの家の子になっちゃいなさい!」っておこるのよ。やぁねぇ。