
あたしはおうちでおふろにはいったことがないの。
いつもママからシャワーで洗ってもらうか、おみせのおねえさんから洗ってもらうの。
だからあたしの夢はね、パパとおふろにはいること。

あたしは甘いものが好き。でもね、パパもママも「ダイエットしなきゃ」って言っているのに、、じぶんたちばっかり甘いものを食べてあたしにはちっともくれないの。ふまんだわ。ちょっとどういうことなのよって思う。
だからいつもいつも、あたしはパパとママの飲み残しをなめるの。 きょうもヤクルトのいれものを横にして、おくの方までひっしでぺろぺろしたわ。パパは「なにをそんなに必死になってんだ?」とわらっていたけれど、ふんだ。
あたしの夢は、おふろあがりにこしに手をあててヤクルトをごくごくと一気のみすることだわ。
こしに手がとどかないのがかなしいのだけれど。
あたしは寒いのはきらい。パパのおへやにようやくストーブが入った。おそいわよ。
あたしは寒いのはきらいだけれど、おなじところにじっとしているのもきらいだわ。そんなあたしを見てパパは、「じっとしていられないなんて、嫁と一緒だ」と言うけれど、あたしにはなんのことやらわからない。
ストーブのついたパパのおへやでねているのだけれど、ときどきはおトイレに行かなきゃならないし、わがやのお庭にあやしいてきが来ていないかも、ときどき見はりに行かなきゃならない。あたしだってそれなりにしめいがあるのよ。
パパのおへやから出入りするとき、戸がしまっていると、そのたびにきゅいんきゅいんとパパに「開けて」ってお願いしなきゃならない。パパはめんどくさそうな顔をする。なによむすめに対してしつれいね。
さいきん、パパは戸をほんのちょっとだけ開けている。「勝手に出入りしろ」ってことらしい。
よっこらしょっ。と。
ママがさいきん、あたしのおハナを見て、ためいきをつくの。
「くーちゃん。あのさ、ママはまっ黒なおハナがいいんだけれどなぁ」ってためいきをつくの。
あたしには見えないからよくわからないのだけれど、あたしはさいきん、おハナの色がうすくなってきたらしい。子犬のときはまっ黒だったのだけれど、たんじょうびのあたりからだんだんと色がうすくなってきたらしい。
このまえびょういんに行ったとき、あたしとおんなじ色のミニチュアダックスさんがいた。たぶんあたしよりセンパイのわんこさんだわ。 パパとママは、そのこのおハナの色にちゅうもくしていた。センパイのおハナは黒じゃなくて、毛の色と同じクリーム色だったわ。
「やっぱりさ、ゴールドのダックスは成長するとああなるんだよ」
パパがびょういんから出ると、ママに言った。
「せめて、まだらになるのはやめてね」
ママがあたしに言った。
そんなことあたしに言われても、なんともできないわ。
あたし知っている。こういうときは「けせら・せら」って言うのよね。
だってパパもさいきん頭の色がうすくなってきて、「これはしかたないよ」って言っているからわかるのあたし。
きょう、ママがうんてんめんきょしょうのこうしんなんだって。
あたしとパパは、ママが終わるまで、くるまのなかでおるすばん。
まだかしら。
おそいわね。
つかれてたいくつで、あたしはねむくなって
もうこんなだわ。
いっかげつくらい前、ママがこんなおもちゃを買ってくれたわ。なわが「わ」になっているの。
あたしはひっぱりっことなげっこをする「なわ」が大好きだけれど、これはちょっとこのみじゃないの。だから、ママがかってきてくれた「わ」で、あそんだことがない。
「ねえくーちゃん。なんでこの「わ」で遊んでくれないの?」と、ママはずっとかなしそうだった。
きのう、ママがあたしと「わ」であそぼうとしたけれど、あたしはやっぱりきょうみがないわ。あたしがよそみをしている時、「むきー!くやしいからこうしてやるっ」って、ママがあたしに「わ」をすぽんとかぶせた。
あらあら。ちょっとこれとってよ。重たいわよ。じゃまだわ。とってよ。
とってくれないの?じゃああたしが自分でとるわよ。
あらあら。かんたんにはいかないみたいだわ。でも、ぜったいにはずしてみせるわよ。
「くるみの『く』は、クラッシャーの『く』」の名にかけてね。
あらあら。ちょっとこれ、どうなってんのよ。
むきー
あんがーーーーーーっっっ!
はあはあぜいぜい。と、とれたわ。どうぶつぎゃくたいでうったえてやるんだから。
そのあと、「わ」を使ってママとひっぱりっこして、あそんだの。
夜。
あたしは「遊んでちょうだい」って、ストーブのまえにいるママに「わ」を持ってきた。あたしはちょっとだけ「わ」が好きになったわ。
あたしのなまえは、くるみ。
くるみ の 「く」 は、クラッシャーの 「く」 よ。
あたしのリングネームは、『クラッシャー ・ くぅ』よ。おぼえといて。
あたしにこわせないおもちゃなんか、ないのよ。
ママが買ってくれたあたらしいおもちゃも、ママがネットサーフィンに気を取られているすきに、ほら。こうだわ。
ふっ…
あたしは今日もまた、つまらぬものをこわしてしまったわ。
あたしはときどき夜、お庭に出してもらってあそんでいる。 あそんでいるときに、おへやの中にいるママを見ると、「くーちゃん。光が反射して、目が赤く光っていて、こわーい」って言われる。
そんなこと言われたって、わんこのしゅうせいだから、しかたないわよ。
だからね、しゃしんをとるときにフラッシュをつけたりすると、目がぎらぎらと光っちゃったりするの。それがあたしのなやみのたねだわ。だって、目が赤くひかっているなんて、かわいくないもの。
もうひとつ、しゃしんうつりで困ったことがあたしにはある。あたしは歯がちょっと外がわに向いているせいか、ときどき歯がお口からはみ出しちゃうのよね。
「くーちゃん。口からキバが出ていて、こわーい」って、ママに言われるの。
そんなわけで、このふたつがいっしょに出ちゃうと、しゃしんうつりがさいあくだわ。
ねえちょっとそんなしゃしんすぐにさくじょしてよ、って思うの。乙女としてね。
わがやにお客さんがきたり、人がいっぱいいるお店におでかけしたりすると、あたしはこうふんしてこうふんしてたいへんだわ。
そのあと、がっくりとつかれて、夜は目がとろんとろんだわ。
ねむねむ〜
朝起きたら、おにわに白いひらひらしたものがふっていたわ。ママがおにわで「おいで」ってあたしをよぶの。
うーん。なんだっけこの白いものは。パパとママのおうちに来たときに見たおぼえがあるのだけれど、まだこどもだったからよくおぼえていない。
あたしは、おそとがさむそうだったし、白いものにちょっとびびって、おへやの中でしばらくかんがえていたわ。でも、ママが「おいで」ってなんどもよぶから、おもいきって出てみた。
ママといっしょに、おにわでかけっこしたわ。
あらあら。あたしのおハナに、白いものがついたわ。
つめたくて、おもいだしたわ。これは、ゆきっていうのよね。
むきー。あたしは今、ちょっとくやしいの。
あたしはストーブの前でねるのが好き。でも、あんまり近づきすぎるとママやパパから 「焼き犬になるからだめだよ」って、むりやり引きはがされるの。
たしかにこの前、パパが「おや。なんだか妙に焦げ臭いぞ」って言った。げんいんをさがしたら、あたしのしっぽの先がストーブの中に入っていたのか、ちりちりにこげていたのよね。あぶなかったわ。
それで、パパがこんなものをストーブの前に置いたの。
むきー。
あたしはとってもふまんだわ。とくに朝はさむいから、ストーブの前に「ぴと」ってくっつきたいのに、さくがじゃまで近づけないの。むきー。
でも、これだけならあたしだってがまんするわよ。だって、パパもママも、あたしのためを思ってやってくれているのだからね。
本当にゆるせないのはこのあとのママよ。
「くーちゃん。あのね、ストーブの前はママの特等席なんだからね」って言って
こんなことするのよ。
ちょっとどういうことよ。あたしも中に入れてよね。
あら。あたしの大好きなヤクルトだわ。
よっこらしょ。っと。
さっそくペロペロするわよあたしは。
まったく。あいかわらず、ちょっとしかのこっていないわね。しょうがないわね。ぺろぺろぺろ。
あっというまに、なめおわっちゃったわよ。もう何もあじがしないわよ。
まあいいわ。ここからはヤクルトをつかって、「クラッシャー・くぅ」 の出ばんだわよ。見てらっしゃい。
ばりばりばり。
めきめきめき。
あぁ、たのしい。
「おまえ、いいかげんにしろっ」 って、パパに取り上げられたわ。
まださいごまでこわしていないのに、あたしはとってもふまんだわ。
今日はクリスマス・イブ 。げんかんにきれいなツリーがかざってあるの。きねんさつえいしたわ。
ママは昨日からクリスマスソングをいっぱい聞いているわ。
あたしのところにもサンタさんは来てくれるかしら?
ママは「くるみもいい子にしているとサンタさんが来てくれる」って言って、くつしたをあたしのハウスにつるしてくれたわ。
明日の朝にはプレゼントが入っているかしら?!
楽しみだわ。
でも「日本にはえんとつがないからサンタさんはどこから入ってくるのかしら?」ってママは不思議そう。
あたしにはそんなことは関係ないわ。
あたしはプレゼントにおいしいものがもらえればいいのよ。
あたしはケーキが好き。でも、いちねんに1回、おたんじょうびのときだけしか食べられないとおもっていた。
でも、今日もケーキがもらえたわ。しかもイチゴがのっているの。ごうせいだわ。
きねんさつえいがおわって、さっそくケーキをたべるわよ。
もうケーキがどういうものか知っているあたしは、ケーキのベテランだわ。
でも、このイチゴ。ちょっとじゃまだわね。まずあたしはクリームをぺろぺろしたいのよ。
よっこらしょ。
そうよ。まずはクリームぺろぺろなのよ。 ぺろぺろぺろ…
くあー。たまんねー。って感じかしら。
あらあらいやだわ。おとめにあるまじき顔をしてしまったわ。
さいごにしょくごのデザートだわよ。あたしは残しておいたイチゴをたべるわよ。
ああ。おいしかった。
これは、パパとママのケーキなんだって。 だからあたしは食べられない。こんなに大きいなんて、さべつだわ。あたしはくやしいから、ちょっとだけなめてやったわ。
あたしはクリスマスがすき。毎日クリスマスしたいわね。
え? これも年に1回だけなの? けちね。
朝おきたら、くつしたの中になにかが入っていたわ。
ママは 「くーちゃん。良かったねぇ。いい子にしていたごほうびにサンタさんからのプレゼントだわ」 ってはしゃいでいて、でもパパは 「けっ。くだらねぇ」って顔をしていた。
なんだかよくわからないけど、あたしはなにかをもらえるのはむじょうけんでうれしいわ。
なかにはこんなものが入っていたわ。あたしはうれしくてうれしくて、ぴょんぴょんはねたの。
「くーちゃん。どっちかひとつだけよ。もうひとつは後でね」ってママにいわれた。
うーん。どっちにしようかしら。
こっちかしら?
それとも、こっちがいいかしら。
おおきいから、こっちにするわ。
でも、クラッシャー・くぅの出番は後にするわ。とりあえずパパのおへやにかくしにいったの。
パパは 「なんだかうんちがあるみたいで、ちょっといや」 って言っていたけれど、しつれいね。
あたしはちょっとひとしごと終わったきぶんだわ。